兵器道楽

兵器に関する古い時代の本を読んでいます。

科学朝日2604年12月15日号[覆面を脱いだ皇軍新鋭機][敵戦車変わり種][上陸作戦に大"人工港湾"][ロケット對ロケット]を読む

遅ればせながら新年おめでとうございます。本年もどうぞよろしくお願いいたします。

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航空朝日が航空機に関するニュースを中心に扱う傍ら、姉妹紙の科学朝日が国防または全般の科学事象を扱っており、特に戦闘車両の諸設計や技術・兵器全般の話題ならこっちを見たほうがいいと思い[敵戦車変わり種]につられてとりあえず手に入れてみた。科学朝日は月刊誌であったが[報道と解説]シリーズになってからは戦時決戦下の時局を鑑みて30ページという薄さであるもののどうやら月に二回刊行されているようである。

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表紙はイギリス軍特殊部隊とドイツ軍戦車、そして航空母艦である。巻頭グラビアは雷電」「彗星」「銀河」「呑龍」が日本各地に襲来するであろうB29撃滅のために投入されることを報じている。これまで日本軍機は名前すらまともに出てこなかった訳であるが(特に海軍機)、本項は「飛行機増産の一途に挺身戦闘される銃後諸氏への激励の言葉にかえたい」とのことである。

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続いて「敵戦車変わり種」。ノーマンディ戦線(原文ママ)で運用されているイギリス軍地雷除去戦車についての記事であった。「かに」「さそり」と呼ばれる装備を後部に搭載している。タイトル的にISシリーズ(ソ連)やT29(米国)あたりを紹介してほしかったが致し方あるまい。翻訳者のセンスが思いっきり出ている気がする。

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海外時報欄ではトップ画像にロンドンへ着弾するV1ミサイルと「土木」にノルマンディ戦線において運用された"人工港湾"が真っ先に書かれている。「反数軸軍が北沸港湾を占領するのに先立ち、港湾施設のない海岸に兵員揚陸の施設を出来る限り急速に施すための諸材料」が紹介されており、わずか2,3週間にてドーヴァー港と同じくらいの大きさを持った港が北沸二か所に完成されたと報じている。なおソースは朝日新聞社ソ連軍機関紙「赤色艦隊」より転載したものとか。

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そのほか「カポック代用品の登場(救命胴衣の材料になる木材)」「成層圏を征くV2号」「Uボート生産中止」「殊勲の戦車拳骨」「B29を大規模輸送機に-複葉にして航続距離6000キロ-」などが紹介されている。一方で国内ニュースでは「食糧保存に電気」「防空都市の実現へ」「ヂーゼル機関の欠点改良へ」(内燃機関の固体燃料使用)といった話題が並んでおり戦局の悪化と本土すらも危うい気すら漂わせている。(本土決戦をするためには食料を備蓄し、セメントと土砂を運搬して強固な防空地下施設を建設し、大型送風ファンを回さねばなるまいという深読み)

大型コラムには「ジュラルミン金属の研究」と「生産過剰に悩むアルミニウム工業(米国)」、「落下傘に関する新考案」「超大型鉱石運搬車」が載っている。超大型運搬車は最大28トンまで貨物を搭載でき、20トンを搭載して箱根の山を登り切る性能を有しているとのことである。

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巻末コラムの「ロケット對ロケット」と称して、V1巡航ミサイルを撃墜するためにイギリス軍が配備している対空ロケット弾の画像が載っている。一口に噴流により推進する無人飛行弾といえども"無電操縦式ロケット爆弾""流星爆弾"では全く原理がことなり、迎撃する側も様々な対策に追われていることを説いている。その他、紙面下部には「人間魚雷の搭乗員」「米の航空機風洞」「地蜂の箱」(ハーフトラックに乗せられる四連装高射機関銃)が紹介されている。

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本号も暗に日本政府の無策を批判しつつ、英米にすり寄るような内容を載せた一冊であった。とはいえ戦車の本を買ったら皇軍戦闘機と流星爆弾、そしてノルマンジー上陸作戦の話題が手に入り満足することができた。戦時下において「プライベート・ライアン」や「Call of Duty」、そして「Medal of Honor」が壮絶な銃撃戦を描いているといわれている一方で、きちんとそのあとの事象を報道している点は特筆に値すると思う。

 

裏表紙宣伝は三和銀行東芝。「吉田○○」という鉛筆による書き込みがされている。(吉田戦車ではないはずだ) 注視してみると、コラージュ模様がプリントされており「航空朝日」に比べて芸が細かい気がした。1944年の〆としてはイマイチなボリュームである気もするが、何だかんだで重要な出来事科学目線で復習できるできるあたり貴重な一冊である。改めて非常体制下こういった"薄い本"を後世に残した先人の労苦には頭が下がる。