兵器道楽

兵器に関する古い時代の本を読んでいます。

科学朝日1945年10月1日号[わが秘匿兵器の覆面を剥ぐ][原子爆弾と未来の戦争][スピードへの本能]

まさかの終戦後ネタ。

どうやら敗戦と同時に多くの情報が民間に出回るようになったようである。

今回はそんな一冊を紹介する。

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日本軍の秘匿兵器である。

戦時中、兵器に関しては性能はおろか名前すら隠すレベルであった我が国の防諜体制であったが、戦争が終わったらいきなりこんな記事が出るとは思わなかった。

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さて、ここに日本軍の開発した科学新兵器たちを紹介する。

「フ號兵器」"気球爆弾"・・・亜成層圏の西風にのせ爆弾を気球とともに北米大陸へ飛行させるというもの。根室宮古、銚子から発射されたという。40ワット発電装置と破壊/焼夷爆弾を搭載し北米上空で自爆するというものだったとか。 

「ケ号兵器」"グライダー爆弾"・・・風任せではなく、自動的に目標へ突進する爆弾。放射線測定器をベースにした熱センサーを搭載し敵船舶へ打撃を与えるものだったという。「ケ」は決戦の意味であると推測されている。

「レ號兵器」"魚雷艇"・・・爆雷を搭載した一人乗りの小型艇。同時に大量に敵艦へ殺到し、急速反転することで水中爆発により大打撃を与えることを目的にしたと言われている。"対波性で劣る小型舟艇では積極的に機動できない" "上陸地点の変更が行われたら待ち伏せの意味がない" "上陸の以前に偵察がおこなわれ、準備爆撃に合えば一たまりもない" という散々な兵器であった。

「トク號兵器」"殺人光線"・・・極超短波を用いた兵器。距離30メートルにて10分かかりネズミ一匹を殺す程度の威力しかなかった。

「各種ロケット弾」・・・中型砲弾から対戦車ロケットまで多種多様なものが製造・配備された。当然ゆるやかに燃焼し、爆発せず、一斉にもえる性質をもった火薬も研究された。なお現地の部隊には離陸補助ロケットに爆薬をつけた即席ロケット弾を用いた部隊もあったらしい。

「さまざまな特攻兵器」・・・先の対戦車ロケットを補佐する対戦車兵器たち。"刺突爆雷"、”手投爆雷”、"円錐爆雷"、"半球型爆雷"、"手投げ火炎瓶"など多数が生産された。モンロー・ノイマン効果を利用し敵戦車の弱点に当て撃破することを目的としていたが、米軍が対策として随伴歩兵の強化や戦車に網を張ると効果がなくなり、却って損害が増大したという。

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航空機について。

単座戦闘機「零戦」が奮戦したことを伝えるが攻撃の要である四発重爆の開発遅延が航空決戦の敗因と解説している。しかし、航空艤装の完成度が低いこと、材料の不足、設計の失敗についても言及している。

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雷電」、「震電」、「銀河」、「連山」、「秋水」、「橘花」がイラストつきで紹介されている。

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読み物「原子爆弾と未来の戦争」(ライフ誌からの翻訳)。どのような手段でも迎撃ができないV2號のようなロケット兵器、一撃で都市を爆砕できる原子爆弾がこれまでの軍事戦略を完全に変えてしまったことを「攻撃の窮極的な勝利」と表現している。一方で原子爆弾やロボット、ロケット兵器、長距離砲は人間が住み、また人間生活の根源たる土地を占領確保し、組織化することはできない」「都市は地下深くに建設されるか、分散しなければ原子エネルギーの集中的攻撃の下で生存することは不可能」と説いており、意外にもアメリカ側が弱気になっていたりする。もっとも、どこにも放射性物質がまき散らされるとは書いていないが。

「新生科学日本に寄せる」(日本再建へのコメント)と「海外時報」。悲しい話題が続いた一冊ではあったが、「無限にむかうスピードへの本能」においては「遊星の回転する大宇宙への旅行にはやがて新しい動力源が必要だろう。それは、この世紀の申し子、原子エネルギーであろう。」という未来を見据えたコメントが載っているのがせめてもの救いである。

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10月号はこの30ページでおしまいである。ちなみに、11と12月号は合併版だったりする。