兵器道楽

兵器に関する古い時代の本を読んでいます。

「切迫せる米本土爆撃」「南太平洋航空戦記」「大東亜の航空交通」航空朝日 昭和18年6月号を読む

太平洋戦争のターニングポイントであったミッドウェーの戦いから約1年後、米空軍第8飛行隊は英本土を起点としてドイツやフランスに攻撃を仕掛けていたのは有名な話である。そんな中で、空母機動部隊を失った日本では本土から直接アメリカを攻撃する計画が練られていたらしい。

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この本では「最近、米英は連敗による鬱積の飛散をドイツ西南部諸都市、ドイツ占領地帯に対する犬糞的テロ爆撃に向け、かつ欧州上陸作戦の緊迫を印象づけんとする謀略的戦法を激化しつつある」と解説している。また、都市に対する攻撃を「天人ともに許されざるアングロサクソンの鬼畜性を遺憾なく暴露」「意識的に非戦闘員を狙った卑劣な人心撹乱」などと書いている。

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一方で日本はどうなっていたものだろうか。陸軍軍務局長 佐藤少将の言葉を借りると「米英本土に鉄槌を加えることの困難はただ太平洋の幅という距離の問題であったが、今や偉大なる飛行機の進歩の前には問題で無くなった。我が国においてはすでにこの問題は技術的に解決し、独伊また米本土空襲の準備を整えつつあり、日独伊呼応しての米本土空襲は必ずしもそう遠くない」と発表している。
 
そんな作戦の暁にはどういった機材を投入するのであろうか。ここではハインケルHe177メッサーシュミットMe264紹介されている。これらの二機種はドイツで建造されいる最新の成層圏重爆で航続距離は1万5千キロに達するという触れ込みであるが、実態はどちらともエンジンや燃料の供給が追いつかず大した活躍を見せていないと言われている。日独が風船爆弾やV号ロケット兵器に頼るのも頷ける。

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後々の出来事を知っているとアメリカは日本本土空襲を一方的に呼号しているが、そのお膝元であるニューヨークの物質文明の象徴である摩天楼街が瓦礫の廃墟と化しルーズベルトの世界制服の野望の本懐ホワイトハウスが木っ端微塵に吹っ飛び、新世界最後の日が刻々と迫っていることも忘れてはならない」という締めが切なくなる一方で、(民間)航空機の航続距離問題は1970年代まで残ったこと、さらに911テロをにわかに予言していることは特筆に値するような気もする。一方で、小松崎茂が制作にかかわった未来戦争映画「宇宙大戦争」ではロケット機が飛び交いニューヨーク、サンフランシスコ、もちろん東京が一瞬で破壊されるシーンがある。こういうのは戦中の人々が考えていたある種の未来絵図だったのだろう。

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と、かなーり厳しい評価をしてみたがこの雑誌にはいくつもの興味深いコラムが載っている。巻頭グラビアでは日本軍の基地、CAMシップ、モスキート戦闘機、DC-4輸送機が映っているし、将来の航空輸送ビジネスに関する話はのちのパンナムやKLMオランダ航空、英国海外航空、そして日本航空が実現させる。飛行艇を推しているのは川西航空機の技術者が書いていからか、はたまた我が国の飛行場増設力が未熟だったからか。来たるべき大型旅客機に関するページでは「丸一日いても快適な内装」「暖かい食事」をはじめとして「与圧」「救命装備」が必須であることを説いている。

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さらに資料価値が高いページとしては「捕虜に聞く敵空軍の実相」という箇所である。南方の捕虜収容所にて海軍報道班員兼編集長が仕入れた米軍飛行兵へのインタビューが載っている。なんと、ガダルカナル島やミッドウェー島の米軍基地配置図なども載っている。そういえば「不屈の男 アンブロークン」という映画があったが、まんま関連しうる話題なんじゃないかな。1943年の2月に「転進」したと言われている同島だが、国民に対してはこのように説明されたと思うと何とも言えない気持ちになる。「海軍報道班員」というシステムは軍部とメディアの癒着・世論操作の一環なんだろうけど、戦時体制下でこういうことはどの国でもやっているのは想像に難くない。

まだまだ資源が逼迫していないからか、紙質が悪いことを除けば94ページという量は紹介しきれないレベルである。こうした資料をななめ読みではなくさらに細かく読んでいくことができれば、さらに戦時下における国民生活の理解や真相の発掘につながるのではないだろうかと主張したい。もっとも、「すずさん」みたいな人がこういう本を読んでいたかは永遠の謎である。

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いつも載っているけど、[あやめ池科学広苑]ってなにさ・・・